《私の本棚 第五十二》  平成13年7月  

    「俘虜記」  
  平 

 哲学的な思索過程をも文字にし、戦争という不条理の世界を、戦争を知らない世代にも考えさせてくれる作品だと思います。冒頭に 「わがこころのよくてころさぬにはあらず」 という歎異抄からの引用があります。歎異抄は親鸞の教えを弟子の唯円が記しました。先の引用は 「また、害せじとおもふとも、百人・千人をころすこともあるべし」 と続きます。生真面目な心の優しい人ほど、戦闘に直面したときは他力本願でないと自分を支えきれないのかも知れません。
 私も、小学低学年くらいまでは亡父の戦争体験談を断片的に聞きました。マラリアに罹って見放され、ビルマの山中を二〜三日一人で放浪したこと。戦友を背負って行軍したこと。弾や砲弾の破片が自分に当たるかどうかは、その人の運命としか言えないといったことなどをです。
 作品にも、「開戦を阻止する行動をとらなかった自分は与えられた運命に抗議する権利はないと思った」 とあります。今、政治家はやたらに、「国民がどう思うか…」 といった如何にも国民思いの有り難い言葉を口にします。「国民」 と言う言葉を作った
勝海舟が聞くとどう感じるでしょうか。
 
舞鶴港,護衛艦






 

護衛艦はまゆき 

操舵室の眺め(舞鶴港)

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