《私の本棚 第四十三》  2000年(平成12年)10月

      「天平の甍」   井上靖  

 日本の天平時代は中国の唐代にあたり、唐は文化の盛んな時代でした。日本からも遣唐使が度々派遣され、その文化を吸収しようと努力していた時代です。現代では中国に行こうと思えば僅か数時間です。しかし、当時は正に風まかせ潮まかせの想像を絶する命がけの、時には数年がかりの旅でした。唐にたどり着ける保証はなく、運良く無事に渡れても今度は帰れる保証はありません。
 物語は、「日本の仏教を確たるものにするため唐の高僧を招聘せよ」 という聖武天皇の命を受けた留学僧三人と別の留学僧二人、鑑真大和上を題材にしています。皆志を持った僧でしたが、病死する者、唐で妻帯する者、余りのカルチャーショックに托鉢流浪の旅に出てしまう者様々です。鑑真大和上は十二年間、5回の渡航失敗や失明にも拘わらず、天平六年 (754年) に東大寺に到着します。仏教という面からですが、当時の青年達の国を思う心と揺れる心が表現されています。 
唐招提寺






 
唐招提寺の石畳
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