正月閑話   「天まであがれ」   平成15年正月

 年齢を重ねるにしたがって、冬の寒さは一段とこたえる。しかも、悔しいけれど頭の方が格別に寒い。北風が吹く中、どちらかといえば遅い時間帯に、犬に引っぱられて散歩に行く時でさえ辛い。
 平成も十五年目。「年号は平成!」と、やや緊張気味の故小渕さんが発表されてから、早、ひと昔半。当事生まれた子供たちが高校に進学する。気持ちはまだまだ若いつもりだが、昭和もまた随分遠くなってしまった。ふた月ほど前、テレビで、東京の下町で凧を作っている職人さんを紹介していた。正確には、何年か前に亡くなっておられるので、作っていた職人さんだ。
 手作り凧が廃れていく中で、かたくなに作り続けている。大きな凧の和紙一杯に、見事なまでの錦絵。私の、おぼろげな小学生の頃の記憶では、普通の凧が五円、奮発すると一回り大きくて十円だったように思う。凧糸も買って、新聞紙を細長く切った尻尾を貼り付けると立派な遊び道具だった。それからすると、職人さんの作る凧は子供の小遣いで買えるものでは無かったのかも知れない。もしお年玉で買えたとしても、木に引っ掛かって破れたり、糸が切れて何処かへ行ってしまう危険を思うと、せいぜい友達に見せて自慢をするくらいだったのかも。
 錦絵の描かれた凧を見たアメリカ人が、故国に紹介し、遊び道具ではなく芸術作品として高い評価を得たという。凧は、かぜ (風) ときれ (巾) から成る文字で、当初の凧の姿が表されている。
 凧は平安時代に中国から伝来し、紙ではなく布を張った高価なもので、貴族や武士の遊びだった。江戸時代から明治にかけては、子供の正月遊びといえば、凧揚げだったらしい。 絵凧・字凧・変り凧など様々なものがある。字凧に書かれる文字は壽、錦、龍、虎が多かったという。正月や端午の節句などの年中行事に結びつけて、子供の成長や開運出世を願ったものらしい。
 そうなると、勇ましく揚げたいのは誰しも同じで、ブンブンとうなり声を出すものがある。それを風箏 (ふうそう)、 音の出ないものを風鳶 (ふうえん) と区別するらしい。
 なるほど、琴が空中で演奏したり、トンビがホバリングをしたりと、良くできた言葉だ。 残念ながら、伝統の美しい凧を揚げる風景は、○○大会と称する場所以外では、めったに見られなくなってしまった。欧米では、複数の糸で操り変幻自在の飛行をする凧は、大変な人気らしい。

 このお正月に凧揚げをする子供を見かけたら、こんな句を思い浮かべながら空を見上げたらどうだろう。

 
  ●そこらから江戸が見えるか奴凧(子規)

●春風の空に武者絵のときの声(不詳)

●切れ凧やふわりふわりと沖の方(子規) 
  『たこたこあがれ、天まであがれ。』  でも私は、糸の切れた凧にならないよう気をつけないと。
奴だこ





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