《私の本棚 第九十八》  平成17年5月

      「放浪記」
 林  芙美子  作

 明治36年下関生まれ、本名フミコ。当時の女性としては、道徳的な慣習からいささか外れて生きていました。母の影響が強かったようです。しかし決して自堕落ではありません。行商をする父母と共に転々として、尾道市立高等女学校卒業後は一人東京へ出ます。しかし、そこでもより良い給料を求めて定まりません。

作者は最初、詩人として世に出ました。詩集 「蒼馬を見たり」 には、放浪記の下地になる生活がうたわれています。人恋しさ、故郷恋しさ、父母恋しさ。お金が欲しい、腹一杯ご飯を食べたい、尾道の父母にも送金したい。気が狂いそうになるような不安感。それらは詩集にも放浪記にもよく表れています。仕事、土地、住まい、愛する人、そのどれもが定まらぬ放浪です。貧困から来る涙も、飲み込まれそうになる不安感も、読者に突き刺さるものではなく明るいのです。 
尾道風景




 

 尾道

 
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